Nostalgic Ha Noi in Viet Nam  ハノイの印象
               
   

トラン・ユアン監督の映画「青いパパイヤの香り」を見た時から、
私のベトナムへの片想いが始まる。ブームが真っ盛りの時には
天邪鬼の虫が邪魔したりもして、そうこうしている内に何年もの
の月日が流れていった。

「ラ・マン」「シクロ」「夏至」「季節の中で」など、ベトナムを舞台
にした映画を繰り返し見ては思いを馳せた。行かずとも恋焦が
れる気持ちにいささかの衰えもなく、そればかりか益々増幅し
熟れた果実の様に身を滴らせ、パンパンに弾けた熱い思いを
抱いて私はハノイのノイバイ空港に降り立った。

繰りかえし侵略された歴史を持つベトナム・・統治した国々の
母国の面影が投影されたこの国の佇まいは、歳月を積み重
ねながら独自の美意識を持つ奥行きのある雰囲気を醸し出し
不思議な魅力に溢れていた。



歴史を感じさせる西洋の影響の色濃い街をそぞろ歩いていると
ノンを被り路上で果物や野菜を売っている行商人や、天秤棒を
担いだ人が通りを横切っていく場面に何度となく出くわした。
そうした光景を目にする度に、あー、ここは紛れもなくアジアな
のだと我に返った。

李王朝がハノイに都を築いた時に作られたという、職人の店が
軒を連ねる旧市街通称36通りの古い町並や、フランス宣教師
が作ったベトナム語が落書された土壁の、まるで油絵に描かれ
たような趣のある路地裏と、洒落たカフェやブティックの立ち並
ぶ佇まいとが醸し出すその印象の落差。
アジアと西洋の文化がクロスしたその混沌さ加減が心地よい。

通りを渡ろうとする度に、道路一杯に広がり向かって来る夥しい
バイクの群れに何度となく道路の真中で立ちすくみ途方に暮れ
たものだけれど、脇道を入れば日除けの下で珈琲やビールを
飲みながら寛いでいる人々の日常が息づいていて、通りを歩い
ている内に、ゆるやかでまったりとした時の歯車にいつの間にか
馴染んでしまっている自分がいた。

刺激的だけれど疲れない。千年の歴史を刻みつづけた首都の
持つしっとりとした落ち着きがハノイにはあった。

歩いてる事が楽しい。一つ路地を曲がる度に発見があり、何か
体の隅々迄街の空気が染み通ってく様な、それは肌で実感す
る久々の昂揚感だった。



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